カレーのお話

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更新日:
 2013年8月2日


◎カレー(2013年8月2日)
 カレー(curry)は、インド料理のように思われているかもしれませんが、インドには「カレー」という料理はありません。インドを発祥とする料理と考えて良いようですが、日本の「カレーライス」は日本で独自に進化した日本料理と考えて良いのではないでしょうか。
 まず、「カレー」という言葉の由来ですが、タミル語説、ヒンディー語説など、様々な説があり、はっきりしていないようです。すなわち、インド南部地域のタミール語で「汁」を意味する「カリ(Kari)」に由来するという説、ヒンディー語で「香り高いもの」という意味の「ターカリー(Turcarri)」に由来するという説、インド北都の「カディ(Kady)」という料理に由来するという説など、沢山の説があるものの、どれも決め手が無いようです。
 カディは北インドで食べられているベサン(ヒヨコマメの粉)でとろみを付けた濃厚なヨーグルトカレーです。ボウルにヨーグルトとベサンを混ぜて水で伸ばし、粉スパイス(ターメリック、黒胡椒、チリなど)を加えて、更に混ぜます。鍋で油を熱して、ホールスパイス&ハーヴ(フェネグリーク、黒胡椒、クローヴ、カルダモン、シナモン、ニンニク、玉葱、赤唐辛子、生姜、青唐辛子)を炒めて香りを出し、細切りの野菜を加えて炒めます。鍋にボウルのヨーグルトソースを注いで弱火で煮込み、フライパンにマスタード種、クミン種をテンパリングして鍋に加え、最後に椰子砂糖を投入して完成です。ロティやライスと一緒に食べることが多いようです。
 インド地域(インドに限らず、パキスタン、スリランカなどの南アジア地域)では、古くから、スパイスを多用した料理が食べられれていました。この地域の料理がヨーロッパに持ち込まれ、「カレー(curry)」として発展していったようです。
 カレーなる料理がヨーロッパに渡ったのは、15世紀半ば頃から始まった大航海時代(ヨーロッパ各国のアフリカ大陸、インド・アジア大陸、アメリカ大陸などへの植民地主義的な海外進出)です。
 「カリール(caril)」という単語を初めてヨーロッパに紹介したのはポルトガル人のガルシア・デ・オルタ(Garcia de Orta:1501~1569)だそうです。彼は、1534年、インド副総督の侍医としてインドに渡り、インド各地を旅行しながら植物、薬学、香料などについての研究に取り組んでいたそうです。そして、1563年に「インド薬草・薬物対話集」という本を出版し、この本の中でカレーについて、「これと鳥の肉か獣肉で、彼等はカリール(caril)と呼ばれる料理を作る。」と記述しているそうです。これが、ヨーロッパの文献に登場する最初の「カレー」だと言われているそうです。
 また、オランダ人のヤン・フィゲン・ファン・リンスホーテン(Jan Huyghen van Linschoten:1563~1611)は、インドに赴任するポルトガルの大司教とともにインドに渡り、1583年にインドのゴアに着いたそうです。大司教に仕えて約5年、同地に滞在し、1592年に帰国、1594年に「ポルトガル人航海誌」、1596年には「東方案内記」という本を出版したそうです。
 この「東方案内記」の中で、リンスホーテンは、「魚はたいていスープで煮込み、米飯にかけて食べる。この煮込み汁を「カリール(caril)」という。やや酸味があって、クライス・ベス(すぐりの一種)か未熟なぶどうでも混ぜたような味だが、なかなか美味で、カリール料理はインディ人の常食である。かれらにとって米飯は、我々のパンに当たる。」と記述されているそうです。
 ちなみに「東方案内記」は1598年には、イギリスで翻訳版が出版されており、当時のヨーロッパでマルコ・ポーロの「東方見聞録」よりも流布したとみられているそうです。
 その後、17世紀になり、イギリスがインドに進出していきます。1747年に、ハンナ・グラッセ(Hannah Glasse:1708~1770)という女性が書いた料理本「Art of Cookery Made Plain and Easy」に、史上初めてカレーの作り方が記されました。
 それは「To make a Currey the Indian way」というタイトルで、以下のように記載されています。「Take two Fowls or Rabbits, cut them into small Pieses, and three or four small Onions, peeled and cut very small, thirty Pepper Corns, and a large Spoonful of Rice, Brown some Coriander Seeds over the Fire in a clear Shovel, and beat them to Powder, take a Tea Spoonful of Salt, and mix all well together with the Meat, put all together into a Sauce pan or Stew pan, with a Pint of Water, let it stew softly till the Meat is enough, then put is a Piece of Fresh Butter, about as big as a large Walnut, shake it well together, and when it is smooth and of a fine Thickness, dish it up, and send it to Table ; if the Sauce be too thick, add a little more Water before it is done, and more Salt if it wants it.You are to observe that the Sauce must be pretty thick.」
 ここでは、「Currey」と記されており、「curry」ではありません。このレシピを読んでみると、「2羽の家禽あるいはウサギの肉を小さく切って、30粒の胡椒の実、スプーン大さじ1杯の米、コリアンダー適量を炒ってからすりつぶして、肉にまぶし、水を加えて煮る」と書かれており、とても沢山の種類のスパイスを混ぜ合わせて作られたインドのカレー料理とは思えません。
 彼女はロンドンに住んでおり、8人の子供をもうけています。ですから、彼女は、実際にインドには行ったことがなく、インド帰りの人からインドの料理を聞き、当時のイギリスで普通に手に入れられる香辛料をもとに、想像で書いた料理法が「Currey」だったと思われます。
 その後、英領インドの初代総督となったウォーレン・ヘイスティングズ(Warren Hastings:1732年12月6日~1818年8月22日)は、インドの料理を気に入り、インドの粉末混合スパイスを持ち帰り、友人達に紹介したそうです。
 しかしながら、イギリス人がインド人のように多種多様な香辛料を使いこなすことは難しく、スパイスを使った料理は食べたいものの、作ることができない、という状況に陥っていたようです。このような状況に目を付けたのがイギリスのC&B(Crosse & Blackwell、1706年創業)社です。
 C&B社は、当初は食品の販売や仕出しなどをしていましたが、そこで人気だったのがカレー料理だったそうです。そこで、このカレー料理に使っていた混合スパイスを家庭でも使えるように商品化し、「C&B カレーパウダー」と名づけて販売したそうです。これによってカレーが英国の家庭料理として普及していきました。詳しい発売年は不明ですが、19世紀初め頃には、既に広く流通していたようです。イギリスの由緒ある辞典、「オックスフォード英語辞典(The Oxford English Dictionary)」には、「1810年にイギリスの印刷物にカレーパウダーの語がはじめて登場する」と記載されているそうです。ちなみに、Oxford Dictionaries online(http://oxforddictionaries.com/)では、「カレー」の語源はタミル語の「カリ(Kari)」であると記載されています。(2013年8月3日、現在)
 「C&B カレーパウダー」は、諸外国に輸出され、フランスでもフランス料理にカレー風味を添えるものとして、度々、利用されるようになったようです。そして、カレーはイギリスからヨーロッパ各地、北米、中南米、アフリカなど、世界各国へと広がっていき、その形や食材を変えて、それぞれの国の食文化に浸透していきました。
 ちなみにイギリスのカレーは、具が牛肉のみというパターンがあったようです。イギリスの中流以上の家庭では、日曜日に大きなローストビーフを焼く習慣(サンデーロースト:Sunday roast)があったそうです。このため、焼いた肉が食べきれない場合、月曜日以降も食べ続けたようですが、この残り肉の調理法の一つとして、カレーが重宝したようです。このため、日本のカレーとは異なり、肉にかけるスープとしての利用だったのかもしれません。現在ではサンデーローストの習慣はなくなったようで、家庭料理としてのカレーはなくなってしまったようです。しかし、「curry and rice」は、パブ(大衆酒場)、クラブハウス(ゴルフ場)や学生食堂などで、現在でも食べられるようです。



日本におけるカレーの歴史