落雁のお話

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更新日:
 2013年6月2日


◎落雁(らくがん)(2013年6月2日)
 落雁は、米などから作った澱粉質の粉に水飴や砂糖を混ぜて着色し、花や鳥などの型に入れて押し固めて乾燥させた和菓子の1種で、干菓子の1つです。干菓子とは、乾燥して水気を含んでいない菓子のことで、生菓子に対する言葉です。
 型に押す際、餡や小豆、栗などを入れて一緒に押し固める場合もあります。現在では、お茶請菓子に用いられたり、仏事や祝儀の盛菓子にも使われます。
 落雁の発祥ですが、落雁は、もともと中国、唐から渡ってきた菓子だとする説が有力です。935年(承平5年)、源順が「和名類聚抄」を編纂しましたが、その中で唐菓子が宴で使われるのは「梅枝、桃枝、かっこ、桂心、てんせい、ひちら、ついし、団喜」の8種で、その他、餅(へい)たん、粉熟、環餅、捻頭、結果(かくなわ)、饂飩(うどん)などがあると書かれているそうです。
 この唐菓子の中で、源氏物語の宿木(やどりぎ)の巻に、「宮のお前にも浅香の折敷、高杯どもに粉熟を盛ってまいらせます」と書かれている「粉熟」は「五穀を五色にかたどり、粉にして、餅にしてゆで、甘かずらをかけ、こねあわせて細い竹の筒に入れ、突き出して作ったもの」というものですが、「落雁」(1967年)と言う書物を記している徳力彦之助氏は、「この粉熟こそ落雁の旧い名前である」と主張されています。
 室町時代には、粉熟の作り方が竹筒から押し出す方式から、板枠に押して切り分ける方式に変っており、また、落雁という名前も文献に登場してくるそうです。1364年(正平19年)頃、源親行が「原中最秘抄」を書いていますが、その中で、前述したような粉熟の製法について説明がされています。
 この新しい方式の粉熟が、何故、「落雁」となったのか、不思議です。その由来には、様々な説があるそうです。以下に主な説をまとめます。
1. 中国の菓子に「軟落甘」というものがあり、これの「軟」がなくなって「落甘」から、「落雁」になった。
2. 足利義満の頃の人で本願寺の五世、綽如(しゃくにょ)上人が北陸巡錫の折、この菓子を出されたところ、白地にごまが点々とあるのが、雪の上に雁が落ちるように見えたので、「落雁」と名付けた。
3. 本願寺八世、蓮如上人が石山寺で瀬田のあたりに雁が落ちるのを見て、その翌日に出された菓子にその名前を付けた。
4. 京都の坂口治郎の二代目が蓮如上人に従って富山の井波に住み、有栖川宮の命によって後陽成天皇に菓子を献じたところ、「白山の雪より高き菓子の名は四方の千里に落つる雁かな」という歌を賜り、落雁となった。
6. 江戸時代の後水尾天皇に加賀藩の前田利常が、この菓子を小堀遠州に意匠させ、帝に献上したところ、田に落ちた雁の落ちたところに似たとて、「落雁」のご染筆を賜ったので、御所落雁とした。
7. 明和 (1764年~1772年) の頃に著された「類聚名物考」の中に、「今、らくかんと云う菓子有、もと近江八景の平沙落雁より出し名なり。白き砕き米に黒ごまを村々とかけ入たり。そのさま雁に似たれば也、形は昔の州浜のさまたりしが、今は種々の形出来たり、云々」とあり、粉熟に点々と配したごまが雁に似ているので名付けられた。
 ここで、近江八景は堅田の落雁で、平砂落雁は中国、瀟湘(しょうしょう)八景に由来します。中国、湖南省洞庭湖に注ぐ瀟江と湘江の辺りは風光がよく、その景勝八ヶ所を十一世紀の北宋の文人画家、宋廸(そうてき)が画題として選んだことから「瀟湘八景」と称されました。その内の一つが「平砂落雁」です。この「八景」は日本に輸入され、大ブレイクし、日本でも多くの水墨画が描かれました。狩野探幽も雪中を飛ぶ雁の群れを描いています。

 ちなみに、先述した徳力氏によると、「雁が落ちるという解釈は、当時の堂上人の言葉で雁が死ぬということであり、そのような不吉な名を彼らが付けるはずがない」とのことです。
 また、鎌倉時代には、既に「落雁」という語は、舶来語として存在していたようです。綽如上人と同時代を生きた世阿弥(観世元清:1363年?~1443年9月1日)の謡曲、「善知鳥(うとう)」の一節に「落雁」という言葉が出てきます。当時、世界の先進国であった宋、元の文化にあこがれていた上流階級の人々は、舶来語を使うことが博学を示すものとして流行していたようで、元清も水墨画の「平砂落雁」を見て早速、謡曲に取り入れたようです。
 そして、そのような時代背景の中、この「雪中を飛ぶ雁の群れ」の水墨画を知っていた教養人が、白地に黒ごまが散った粉熟を見て、「これぞ落雁」と命名したのではないか、というのが有力な説です。